Excelを用いた Schwarzschild 時空の具体例計算

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エクセルを用いて、 シュワルツシルド時空の具体例を見て行きます。

初学者の私にとって、一般的な相対論の教科書の分かりにくかった点は、アインシュタインの縮約記法(Einstein summation convention)を始め、式の展開が抽象的な表現で終わっていることが多かったことと、論理の展開があまりにスマートで、狐につままれたような気持ちにさせられたことでした。

そこで、あからさまに展開した式を示すとともに、行列式その他をエクセルのセルに組み込み、具体的な数値を代入した計算値を得、必要に応じてセルの計算式も見ることが出来るようにし、論理構造が見えるようにしました。 また、同じ意味合いの計算を、泥臭く幾通りかの方法で行うことにより、論理の展開に確信が持てるようにしました。 下記に添付するエクセルファイルにおいて、水色のセルの入力値を変更すれば、それに応じた計算値を得ることが出来ます。

Sorao_Schwarzschild_13.xls
*右クリック、「名前を付けてリンク先を保存」 で保存後、Excelで開いて下さい。

図1 シュワルツシルト時空の座標系

図1 シュワルツシルト時空の座標系

図2 3つの座標系

図2 3つの座標系

このエクセルファイルでは、シュワルツシルド半径aの重力源Mに、無限遠方からテスト粒子 m が自由落下する場合を検討しました。 図に描きやすい、きれいな値が得られるように、デフォルトの入力値(テスト粒子の現在の位置r0)は、 r0/a = 1/0.36 = 2.777… の点としました。 テスト粒子の現在の位置 r=rを原点、デフォルトの注目点を、Q:オイラー座標系で(10, -6.4) の点とし、この点が各座標系でどのように表されるかを計算しました。

一般的な教科書では、無限遠に静止した観測者に固定しオイラー座標系」 (Eulerian coordinates) と、無限遠から重力源Mに自由落下する観測者に固定した「ラグランジュ座標系」 (Lagrangian coordinates) の関係を計量で直接結ぶ場合が多いのですが、今回の計算は、原理的な分かり易さを優先して、r0の位置に静止した観測者に固定した「静止座標系」(Stationary coordinates:筆者造語)を間に挟みました。 Schwarzschild 時空の特徴は静止座標系に負わせ、ラグランジュ座標系は、この静止座標系にローレンツブーストをかけたものだと考えました。

クリストッフェルの記号や計量、単位行列、ベクトルの反変成分や共変性分についても、エクセルの組み込まれた式を追っていけば、その成り立ちの構造が分かるようにしました。

- エクセルファイルの内容 -

  • 1. Situation
  • 2. Coordinates and symbols
  • 3. Metrics
  • 4. Calculation of a Concrete Example
    • 4-1. Schwarzschild geometry
    • 4-2. Lorentz boost in Schwarzschild geometry
    • 4-3. Energy balance after δt
  • 5. Acceleration (analytic)
  • 6. Christoffel symbols
  • 7. Acceleration (geodesic equations)
  • 8. Another formula for expressing metric tensor
  • 9. Calculation of proper distance (length) D
  • 10. Unit vector
  • 11. Expression of a vector using unit vectors
  • 12. Contravariant components and covariant components
  • 13. Acceleration (differential method)

内容が前後しますが、初学者さんのために基本的な説明を追加します。

元々、一般相対性理論は、座標系などはどんなものを使ってもOKと言うところから始まっています。 実態は一つなのですが、この同じ実態を表現するのに、どんな座標系を使っても良いということです。 なんでも良いなら、その位置に住んでいる人にとって全く歪みのないものを使いましょう、と言うことで選ばれたのが、ラグランジュ座標系です。

潮汐力が非常に大きくなる場合を除けば、大きな重力源の近くの歪んだ空間にいたとしても、その位置で自由落下している宇宙船の中に住んでいる人にとっては、宇宙船の内部の空間は全く歪んでいません。 したがって、宇宙船に固定されたラグランジュ座標系は、宇宙船内の人にとっては、全く歪みのない普通の座標系です。 宇宙船の内部を観察する限り、彼には、潮汐力以外に彼の居る空間が歪んでいるのかどうかを知る術が有りません。 このラグランジュ座標系を使う限り、そこに住んでいる人の近傍に限っては、ニュートンの物理法則が、全てそのまま有効です。 これを等価原理(equivalence principle) と言います。

しかし、無限遠の人からみると、その宇宙船内の人は、宇宙船に固定されたラグランジュ座標系もろとも歪んでいるように見えます。 この無限遠の人の視点で見た座標系がオイラー座標系です。

光速は誰にとっても c です。 これを光速不変の原理と言います。 しかし、もう少し詳しく言うと、どの観測者にとっても、その観測者の近傍の光速は c だと言うことです。 図2において、O点はオイラー観測者からは、相対論的に遠く離れた点なので、オイラー観測者から見ると光の速度が遅いように観測されます。

一方、 静止観測者は時間に拘わらず r = r0 の点に、ラグランジュ観測者は t=0 の時はO点、一般的には τ 軸に沿って移動していきますが、どちらの観測者も、相対論的には r0 に近い場所に居ます。 したがって、光は彼らそれぞれの観測する時間間隔1目盛りの間に、彼らそれぞれの観測する距離間隔1目盛りを進みます。 結果として、光の経路を示す赤い波線は、静止座標系およびラグランジュ座標系の格子点上を通ります。 これは、彼らにとってのその位置の光速が1であることを示します。

特殊、および一般相対性理論でやっていることを端的に言うと、この、ラグランジュ座標系で表せば普通の物理現象を、無限遠の人( ≈ 我々)がオイラー座標系で見たらどうなるか、ということを、一生懸命対応づけていると言うことだと思います。

– 記 –

  • このエクセルファイルの著作権は Sorao に帰属します。しかし、どなたでも御自由にダウンロードしてお使い下さい。エクセルシートには、「シート保護」をかけていますが、パスワード無しで解除出来ますので、御自由に改変して下さい。
  • このファイルおよびこのファイルを改変したものを、引用の範囲を超えて、貴ホームページや公にアクセス可能な場所に置く事は禁止とさせて頂きます。 代わりにリンクを張って下さい。
    できれば、トップページhttp://doppolaboratory.comにリンクを張って頂ければ嬉しく思います。
  • エクセルファイルは予告無く改訂されることが有ります。
  • このファイルの内容は、多数の教科書や文献を参考に、一般的な見解や方法から外れていないことを注意深く精査したつもりであり、幾通りかの独立した方法で計算した結果も一致しているので間違いはないと信じてはいますが、筆者はアマチュアであり、正確さを保証するものでは有りません。 誤り等をご指摘頂ければ感謝致します。
  • オイラー座標系とラグランジュ座標系の、言葉の意味を取り違えて説明していたので修正しました。
    Oct. 9th, 2013

メール : sorao@doppolaboratory.com

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