ブラックホールまでの距離は有限か?

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この疑問については、私が勝手に師と仰ぐEMANさんホームページで解説されており、この解説の通り、有限だとする見解が広く認められた一般的な見解だと思われます。 しかし、私にはひっかかるところが有りますので、問題を明確化したいと思います。

 !!注意!! 「私の疑問」であり、標準的な見解とは異なっている場合が有ります。

まず、EMANさんの解説の内容をおさらいします。
シュバルツシルト解は下記のように表されます。

   (1)

(1)式において、まず、球対称な時空の半径方向の距離lのみを考えることにして、とりあえず右辺第3項および第4項を0としておきます。また、時間を凍り付かせ、静的な幾何学のみを考えることにすると、第1項を0と考えることが出来ます。すると右辺の残りは第2項のみとなり、同一時刻における半径方向の線素dsの大きさを求めることが出来ます。

   (2)

(2)式を用いて、ブラックホールの外側に位置する点からブラックホールの表面までの距離を求めます。 点およびブラックホール表面の、ブラックホール中心から距離をそれぞれ rt 、 rとすると、互いの距離  は次式で求めることができます。

   (3)

この式を解くと、

   (4)

この式に、rt >> rs という条件を加えると、

   (5)

となり、これは有限値になります。

これを、「Excelを用いた Schwarzschild 時空の具体例計算」で計算した具体例に当てはめて考えてみます。 このページに記載の図2は、1つの計算例として、シュワルツシルド半径aの重力源Mに、無限遠方からテスト粒子 m が自由落下し、r0 / a = 1/0.36 = 2.777 の位置に達した場面を3つの座標系で表したものです。 この例では、先ほどのEMANさんの計算は、rtr0 = a / 0.36、 rsa 、 dsdp となります。 空間の縮み方は、(2)式の係数を γとすると、この場所では γS = 1.25 となっています。 図の縦軸と横軸の単位は、幾何学単位系でどちらも [m] とします。時間の単位 [m] は、平坦な時空で光が 1 m 進むのに必要な時間という意味です。

図2からも読み取れるように、無限遠にて長さ 4 m だった棒をこの位置に持ってきて時間 t=0 に半径方向に伸びるように静止させた場合、その位置に静止した観測者(静止観測者)は、その棒の長さOSを静止座標系 (Stationary coordinates) Δp で計るのでこの棒が 4 m に見えます。 しかし、無限遠の観測者(オイラー観測者)は、この棒の長さをオイラー座標系(Lagrangian coordinates) Δr で計るので、3. 2 m に縮んで見えます。この縮み方は、シュワルツシルド半径 に近づくほど大きくなり、事象の地平線では無限に縮みます。 そうすると、この棒を半径方向に何本並べても事象の地平線までは到達しないのではないかと心配になったので計算してみたが、(5)式が示すとおり、そんなことはなかったというのがEMANさんの解説の主張です。

ここまでは異議有りません。
では、何が気に入らないのか?

それをこれから述べます。 以下は筆者独自の考え方なので、一般的な考え方とは異なる可能性があることを承知の上でお読み下さい。

そもそも、一般相対論においては、距離も時間も光で計られるべきだと思うのです。 そこで、波長 λ = 1 μm の光が 10 回波打つ時間を 1 m、106個の波を含む距離を 1 m とし、この光を時間と距離の原器と考えることにします。

ちなみに、
光速 c は、誰にとっても c ですが、それは、その観測者の周辺のみについて言えることです。 観測者 i からみた地点 j の k 方向の光速を ckji とすると、それぞれの観測者が見たそれぞれの地点の光速は、ckLL = ckSS = ckEE = c = 1 (kは全ての方向、L, S, E はそれぞれ Lagrangian, Stationary, Eulerian) です。 しかし、オイラー観測者から見た r0 付近の半径方向の光速 cr0E=dr/dt は c (=1) ではなく、(1)式で ds = dθ = dϕ = 0 とおくことによって次のように求めることが出来ます。

   (6)

具体例の、r0 = a / 0.36 の位置では、この値は0.64(無次元)になります。

無限遠からこの位置まで長さ 4m の棒を半径方向に向けて落下させ、その先端がP点に達したとき、 t = 3.75 m の時間に居るオイラー観測者にとっては、この棒は点 PR 間に存在します。 図より、その長さは0.64 倍と、光の速度と同じ割合で、短縮していることが分かります。

さて、無限遠から r0 に向かってこの光を、時間幅 4 m 分のパルスで照射したものとします。この光は、長さ4 m の光の矢となって進み、時間 t=0 においてその先端が r0 に到達したものとします。 この事象は、図2ではO点にプロットされます。 光の矢の後端は、 Δt  = 4 m 後に r0 に到達します。この事象が図のU点です。 OU間の時間は、無限遠に静止するオイラー観測者からみれば Δt = 4 m ですが、 r0 に静止する静止観測者からみると Δq = 3.2 m となります。光は、その場所に位置する静止観測者にとっての 1 m の時間でその場所での 1 m の距離を進むので、この光の矢の先端は図のOQを結ぶ赤い波線に沿って、後端はUを通る赤い波線に沿って進行します。 時間 t = 4 m ≡ q = 3.2 m において、この光の矢はTU間に存在し、その間 に 4 × 106 個の波が存在することになります。 図2より、棒の長さPR間の距離はTU間と同じなので、先ほど定義した長さの原器を用いてこの棒の長さを測ると 4 m と、正しく計ることが出来ます。

この光が r0 から a まで到達するのに必要な時間をTとすると、

   (7)

となり、これは無限になります。
(5)式より、距離は有限だったはずなのに、(7)式で計算すると、この有限の距離を光速で旅しても無限の時間がかかることになります。 この光を r0 から照射し続けた場合、その先端がブラックホール表面に到達する前に無限の数の波を送り出すことができます。 従って、先ほど定義した距離の原器で測定すると、r- a 間の距離は無限ということになります。 これはどういうことでしょうか。

私の考えを述べます。

(4)式で計算される距離  は、「もしも、物体を r0 とブラックホール表面の間に静止させることが出来、それをブラックホールから遠く離れた位置にまで回収することが出来たとするならば、そこで計ったその物体の大きさは  になります。」 と言う意味です。 ところが、(7)式が意味することは、「そもそも光を含む如何なる物体も、実際にはブラックホールに届かせることは出来ない。」 と言うことだと思います。 一番最初の(2)式のところで時間の項を省いてしまいましたが、距離だけを考える場合においても、時間の項は重要な役割を果たすのではないでしょうか。

従って、紙に鉛筆で描いたような、仮想的な物体に関しては (4)式の考え方も有効ですが、実体のある物体を扱いたい私の立場としては、この、「地に足のついた物理学」 のサイトでは、ブラックホールまでの距離は無限である、と考えたいと思います。

PRの長さがOSよりも短いのは、Sorao_Schwarzschild.xls で説明したとおり、高速運動に伴うローレンツ短縮のためです。 物の長さは静止させて測るのが当たり前なので、(4)式が適当だとする立場も分かります。 しかし、上述の通り、実際にはそれは不可能なことであるのに対し、自由落下は物体の自然な状態です。 また、光速で無限に伸びる伸びる如意棒をいくら長く伸ばしても、我々の宇宙の寿命が尽きる前にそれがブラックホールまで届く事は無い、と言うのも動かせない事実であることから、ブラックホールまでの距離は無限である、と考えたいと思います。

素朴な疑問:「ブラックホールには物質がぎっしり詰まっているか」 に続く。

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